花押集

 表紙は錆色で、袋綴じ、「阿波國文庫」印が首尾に二印と「不忍文庫」印が首に一印ある。

 花押とは書面に付する自署に代わる記号、符号を意味するが、平安中期頃から公卿、僧侶など有識者たちの間で見られるようになる。もともとは、名に代わるものなので花押があれば名前の記載はなかったが、戦国乱世の頃から実名と花押の併記が通例化し、江戸期までその用法が一般化した。多くは祐筆に代書させ花押のみを書き添えていたが、やがて花押の型紙をつくり、墨で上塗りする方法(填墨)や、花押を木板に彫り込むなど花押の印章化(花押印)が行われるようになる。

 編者屋代弘賢(1758-1841)は江戸後期の国学者。群書類従の編纂でも知られ、書や和歌に通じその蔵書は我が国有数の「不忍文庫」として記憶される。(後年、蜂須賀家にその蔵書がわたり、阿波国文庫を構成する)。