源氏物語(桐壺巻)

 表紙は菱形十窓唐草紋の金襴で、見返しは金銀砂子散らし模様、料紙は鳥の子、一面十行書の枡形本。

 本奥書に、嘉禎二年(1236)に為經が藤原定家の証本を借用して書写したものであることが記されているが、実際の書写者は、巻末にある極書や同筆の和歌懐紙から、冷泉為秀(-1372)の筆跡であることが確認されている。為秀は鎌倉後期から室町初期にかけての歌人で『十六夜日記』で知られる阿仏尼の孫に当たる。足利義詮の歌道師範を務め、吉田兼好や頓阿とも親交があった。本書は現存する『源氏物語』の写本としては古い部類に入る。

 源氏物語は紫式部による我が国を代表する物語文学の古典。五十四帖からなる物語は光源氏とそれを巡る多くの女性との物語が仏教的輪廻観を背景に、人間の栄光と苦悩に深く思いめぐらして「もののあわれ」を基調とした世界が描かれている。