専修大学文学部日本語学科

専大日語・コラム

専大日語の教員による、月替わりのコラムです。

2019年9月:「から」について分析するからね。

今月は文法の話題です。特に、接続助詞「から」を用いた複文の構造と意味について、みなさんと一緒に考えてみたいと思います。

2種類のカラ節

接続助詞の「から」は、述語句に後接して従属節(カラ節)を構成します。次の例を見てください。

 (1) 雨が降ったから、道が濡れていた。

(1) は、主節の「道が濡れていた」という事態がなぜ引き起こされたのか、その理由として、「雨が降ったから」というカラ節が述べられています。この場合のカラ節は、主節で表された事態の〈原因・理由〉を表す用法だと言えます。これは、カラ節のもっとも一般的な用法と言えるでしょう。

一方、次の例ではどうでしょうか。

 (2) 道が濡れていたから、雨が降ったのだろう。

(2) は、主節の「雨が降った」という事態が引き起こされた理由として、「道が濡れていた」というカラ節が述べられているわけではありません。むしろ、この場合のカラ節は、主節で表された判断「雨が降ったのだろう」に対して、そのように判断した 〈根拠〉を表していると言えます。

つまり、カラ節には、〈事態の原因・行動の理由〉を表す用法と、〈判断の根拠〉を表す用法の、2種類があるわけです(田窪 1987)。

文法的なふるまいの違い

〈事態の原因・行動の理由〉を表すカラ節と、〈判断の根拠〉を表すカラ節の間には、文法的なふるまいに違いが見られます。 以下では、田窪(1987)を参考に、その違いを見ていきましょう。

まず、〈事態の原因・行動の理由〉を表すカラ節は、主節の事態が起こった理由を尋ねる疑問文に対して、そのまま答えになり得ます。

 (3) ― どうして道が濡れていたのですか?
   ― 雨が降ったからです。

一方、〈判断の根拠〉を表すカラ節は、主節の事態が起こった理由を尋ねる疑問文に対する答えにはなりません。

 (4) ― どうして雨が降ったのですか?
   ― ?? 道が濡れていたからです。

この場合のカラ節は、むしろ、主節で示された「判断」の根拠を尋ねる疑問文に対する答えになります。

 (4') ― どうして雨が降ったと判断するのですか?
   ― 道が濡れていたからです。

また、〈事態の原因・行動の理由〉を表すカラ節は、そのままの形で疑問文にすることはできません。

 (5) ?? 雨が降ったから 道が濡れていましたか?

適切な形にするには、主節の述語句に「の」を付加して、カラ節を疑問の焦点(スコープ)に入れる必要があります。

 (5') [ 雨が降ったから 道が濡れていた ] ですか?

一方、〈判断の根拠〉を表すカラ節は、疑問やモダリティの焦点には入りません。(2)の「だろう」の焦点は、「の」があるにも関わらず、「雨が降った」にしかおよびません。その構造は、以下のように分析できます。

 (6) ?? [道が濡れていたから、雨が降った] のだろう。
 (6') 道が濡れていたから、[ 雨が降った] のだろう。

以下は、田窪(1987)が挙げている例です。主節の「でしょう」というモダリティの焦点構造に、「の」の有無が関わっていることを、うまく示した例だと思います(私は大学院生の時にこの論文を読み、「例文に語らせる」分析の鮮やかさに感動した覚えがあります)。

 [彼が行ったから、彼女も行った] のでしょう。 → 〈事態の原因・行動の理由〉
 彼が行ったから、[彼女も行った] でしょう。  → 〈判断の根拠〉

このような観察から、 〈事態の原因・行動の理由〉のカラ節は主節の「事態」のレベルに係る一方、 〈判断の根拠〉のカラ節は主節の「判断」のレベルに係る、と考えられます。 二つのカラ節は、文の階層構造における係り先(統語的な位置)が異なっているわけです。

いろいろなカラ節

さて、カラ節には、〈事態の原因・行動の理由〉〈判断の根拠〉以外にも、いろいろな用法があります。

 (7) もうすぐ彼が帰ってくるから、この鍵を渡してくれる?
 (8) 冷凍庫に冷凍パスタがあるから、チンして食べててね。
 (9) 明日必ず返しますから、1000円貸してくれませんか。

これらの例におけるカラ節は、いずれも〈事態の原因・行動の理由〉〈判断の根拠〉を表しているとは考えにくいでしょう。 (7)は二つの事態(彼が帰ってくる → 鍵を渡す)の〈時系列〉を、(8)は主節の行動(チンして食べる)を可能にするための〈前提情報〉を、 (9)は主節の依頼(1000円貸してくれ)を成立させやすくするための〈条件〉を、それぞれ表していると言えます。

さらに、次のような例はどうでしょうか。従属節で文が終わる「言いさし」の場合です。

 (10) じゃ、ぼくは帰るから
 (11) 絶対に許しませんからね。

白川(1991)は、「カラで言いさす文」の例として上のような例を挙げ、以下のように観察しています。

このような「カラ」は、接続助詞らしさに欠けていて、むしろ終助詞に似た性質を帯びている。 その性質は、単に従属節のみで言いさしていて主文が後続していないという統語的な特徴だけでなく、 主文を補おうにも補うべき主文が考えにくい、という意味的な特徴によって、支えられている。(白川 1991, p.249)
日常会話の中では、このような「言いさし」が頻出すると思われますが、その数量や用法の分布は、 まだよく分かっていません(言いさし文に興味のある人は、白川(2009)も参照してください)。

日常会話に現れるカラ節

現在、国立国語研究所で構築が進められている『日本語日常会話コーパス(CEJC)』は、 日常の様々な会話を動画付きでコーパス化したものです。 現在、50時間分の「モニター公開版」が、ウェブ上の「中納言」で検索できるようになっています(要登録)。

中納言でCEJCに現れる接続助詞「から」を検索したところ、5,784例が見つかりました。 このうち発話の末尾に接続助詞「から」が現れていたのは、1,422例でした。 全体の約25%が、発話の末尾に現れていることになります。例えば、以下のような例です。

石塚 ほいで そこでまた三年生が追いコン企画するから:
石塚 (F あの) みんなで会おうね:ってゆって。
 あー。
石塚 それじゃ: ぜひぜひ:みたいな話しはしてたから
 そうなんですね。
 四年生は来てくださりそうですよね。
(T010_009)

日常会話の中では、どのような用法のカラ節が、どのような位置で、どれくらい使われているのでしょうか。 日常会話を大量に収録したCEJCを定量的に分析することによって、その実態の解明に一歩近づくことができるでしょう。


さて、4年生のみなさん、今日から9月ですから、卒論の提出まで、残り3か月半ですね。 専大日語で学んだ4年間の総括になりますから、しっかり取り組んでください。 頼むから、提出に間に合わなかった、ということのないように。 みんなの健闘、期待してるからね。

丸山岳彦


<参考文献>
  1. 田窪行則(1987)「統語構造と文脈情報」『日本語学』6巻7号, pp.37-48.(『日本語の構造 - 推論と知識管理』に再録) [OPAC]
  2. 白川博之(1991)「「カラ」で言いさす文」『広島大学教育学部紀要』第2部 第39号, pp.249-255. [PDF]
  3. 白川博之(2009)『「言いさし文」の研究』くろしお出版. [OPAC]

バックナンバー

バックナンバーのページへどうぞ。

トップに戻る