スウェーデン臓器移植法
[Lag (1995:831) om plantation]
総 則(Inledande bestämmelser)
第1条 本法の規定は、病気、怪我の治療、またはその他、医療の目的をもって生体または死体から器官その他の生物質(organ eller annat biologisk material)を摘出採取する場合に適用される。本法において中絶胎児からの器官その他の生物質の摘出採取および営利を目的とした器官その他の生物質の取引および仲介の禁止に関する規定を設ける。
第2条 本法の規定は、生殖細胞または生殖細胞を生産する器官の移植には適用されない。
本法の規定は、自家移植には適用されない。
死体からの生物質の摘出採取(Biologiskt material från avlidne)
第3条 死者が移植(transplantation)またはその他の医療行為を目的として自己の遺体から器官その他の生物質を摘出採取する同意を与えている場合、または何らかの方法で死者が自己の遺体から器官その他の生物質を摘出採取することに同意を与えていることが確認できる場合、死体から器官その他の生物質を摘出採取することができる。
但し、死者の意思が確認できない場合においても、書面によって死者が明らかに自己の器官その他の生物質の摘出採取を拒否している場合、またはその他の理由から、死者の遺体から器官その他の生物質の摘出採取を行うことが死者の意思に反すると認められる場合を除いて、死者の遺体から器官その他の生物質の摘出採取を行うことができる。
諸般の事情から死者が臓器移植について反対の考え方をもっていたみなされる場合、またはその他特別の事情ある場合、死体からの器官その他の生物質の摘出採取を行ってはならない。
第4条 第3条第2項の規定によって器官その他の生物質の摘出採取が認められる場合であっても、死者の身近にいる者から反対の意思表示が行われた場合、器官その他の生物質の摘出採取を行ってはならない。死者と特別の関係をもっている者がいる場合、その者に対して遺体からの細胞、組織の摘出採取について説明を行い、且つ摘出採取について反対の意思表示を行うことができる旨を伝えた後でなければ遺体からの器官その他の生物質の摘出採取を行ってはならない。器官その他の生物質の摘出採取の説明を行う場合、相手方に相当な考慮期間を与えなければならない。
生体からの器官その他の生物質の摘出採取(Biologiskt material fran levnade)
第5条 器官その他の生物質の摘出採取によって器官その他の生物質の提供者の身体、生命に重大な危険を及ぼすおそれがあると認められる場合(om ingrepp kan befaras medfora allvarig fara for givarens liv eller halsa)、器官その他の生物質の摘出採取を行ってはならない。
第6条 生体からの器官その他の生物質の摘出採取は、そのことが移植その他の医療行為を目的とし、且つ本人がそのことに同意を与えた場合においてのみこれを行うことができる。摘出採取される器官その他の生物質が再生不能の器官その他の生物質である場合、または器官その他の生物質の摘出採取を行うことによって、何らかの形で、臓器を摘出される者に対して、重大な損害または不都合(beaktande sakda eller olagenhet)を及ぼすおそれがある場合、同意は書面をもって行われなければならない。
未成年者、精神障害者から器官その他の生物質の摘出採取を行う場合、第8条の規定に従う。
第7条 生体からの再生不能器官その他の生物質の摘出採取は、摘出された器官その他の生物質の提供者と摘出採取された器官その他の生物質の提供を受ける者が血縁関係にある場合、または特別の関係にある場合においてのみこれを行うことができる。但し、特別の事由ある場合、上記以外の者についてもこれを行うことができる。
第8条 移植のために未成年または知的障害によって同意を与えることができない者から器官その他の生物質の摘出採取は、器官その他の生物質の提供者と被提供者が血縁関係にある場合、または器官その他の生物質の提供を受ける者がその者以外の者から必要な器官その他の生物質の提供を受けることができない場合以外、器官、その他の生物質の摘出採取を行ってはならない。臓器提供者が未成年者(underarig)の場合、器官その他の生物質の摘出採取に関する同意は、未成年者の監護者(vardnadshavare)、特別代理人(god man)によって行われれ、また臓器提供者が知的障害者(psykisk storning)の場合には、その同意は、特別代理人(god man)または管理人(forvaltare)によって行われる。臓器提供者本人が器官その他の生物質の摘出採取を拒否した場合、器官その他の生物質の摘出採取を行ってはならない。
前項に規定する器官その他の生物質を摘出採取しようとする場合には、社会庁の許可(Socialstyrelsens tillstand)を得なければならない。摘出採取される器官その他の生物質が再生不能の臓器である場合、社会庁は相当の理由がない限り、その許可を行ってはならない。許可申請は、監護者、特別代理人または管理人後見人よって行われる。許可申請に際して、申請者は、事前に摘出採取に関して決定権をもっている医師から承認を得ておかなければならない。
第9条 移植以外の医療目的をもって生体から器官その他の生物質の摘出を行う場合で、且つ摘出採取される器官その他の生物質が再生不能の器官その他の生物質であるとき、またはそのことによって臓器を摘出される者に対して重大な損害、または不都合が生ずるおそれある場合、器官その他の生物質の摘出採取は、社会庁の許可を得て行わなければならない。
前項に規定する器官その他の生物質の摘出採取は、未成年または精神的障害によって同意を行うことのできない者に対しては、これを行うことができない。
第10条 ある者が移植またはその他の医療目的のため、自己の器官その他の生物質の提供を行おうとする場合、権限を有する医師は、事前に、臓器提供者に対して、臓器提供者が第8条に規定されている未成年または精神的障害者の場合には、未成年者または精神的障害者の監護者、特別代理人または管理後見人に対して器官その他の生物質の摘出および採取の目的、方法および臓器の摘出採取によって生ずる危険性について十分な説明を行わなければならない。第6条または第8条に規定されている同意は医師に対してこれを行う。その場合、医師は同意者が医師の説明を十分に理解していることを確認しなければならない。
中絶胎児からの器官その他の生物質の摘出採取(Vavnad från aborterade foster)
第11条 中絶胎児から摘出採取された器官その他の生物質は医療のために使用することができる。中絶胎児から摘出採取した器官その他の生物質を使用しようとする場合、事前に、母親から同意を得なければならない。同意を求める場合、医師は摘出採取された器官その他の生物質の使用目的について説明をおこなわなければならない。
前項に規定されている器官その他の生物質の摘出採取を行う場合、社会庁の許可を得なければならない。社会庁は相当と認められる場合を除いて、その許可を与えてはならない。
決 定(Beslut m.m.)
第12条 本法の規定によって行われる器官その他の生物質の摘出採取の決定は、「医療法」[Hälso- och sjukvårdslagen (1982:763)]第14条に規定されている部局の部長医師または第2項に規定されている部長医師によってその決定権を委任されている医師で、且つ他の部局においてその業務に対して責任を有する医師によって行われる。但し、その決定は摘出採取された器官その他の生物質の適用を受ける者の主治医または摘出採取された器官その他の生物質を他の医療目的に使用しようとしている医師だけで行ってはならない。また中絶胎児からの摘出採取された器官その他の生物質を移植またはその他の医療目的に使用しようとする場合、中絶手術を行う医師または中絶手術を行う日時を決定する医師だけでその決定を行ってはならない。
本法に規定されている決定を行う場合、第8条、第9条および第11条に規定されている社会庁の許可を得なければならない。
政府または政府によって指定された行政機関は、医師以外の医療施設の職員に対して、本法に規定されている医師に代わって医師の任務を行わせることができる。
第13条 政府または政府によって指定された行政機関は、本法に規定されている器官その他の生物質の摘出採取を「医療法」第5条に規定されている病院または医療施設内の他の部局もしくは医局において行うことを指示することができる。
罰 則(Straff m.m.)
第14条 本法の規定に反して、故意に生体または死体から器官その他の生物質の摘出採取を行った者、もしくは中絶胎児から器官その他の生物質の摘出採取を行った者は罰金刑に処する。
第15条 利益を目的として、故意に生体または死体もしくは中絶胎児から器官その他の生物質を摘出採取し、または摘出採取した器官その他の生物質の売買またはその仲介を行った者は、罰金刑または2年以下の懲役に処する。摘出採取された器官その他の生物質が取引の対象となっていることを知りながら、営利を目的として、その器官その他の生物質を移植または他の目的に利用した場合、また同様である。但し、その犯罪行為が軽微な場合、その罪を免ずることができる。
摘出採取されたものが血液、毛髪、母乳および歯の場合には前項の規定は適用されない。
第16条 本法の規定によって犯罪の対象となった器官その他の生物質は、そのことが相当とみなされる場合、その器官その他の生物質は廃棄することができる。犯罪準備の対象となった場合、また同様である。
異議の申し立て(Överklagande)
第17条 第8条、第9条または第11条に規定されている社会庁の決定に対して異議ある場合、普通行政裁判所に対して異議の申し立てを行うことができる。
高等行政裁判所に対して異議の申し立てを行う場合には、高等裁判所の審理許可を受けなければならない。
1.本法に規定は1996年7月1日から施行する。本法の施行と同時に旧臓器移植法[Transpalantationslagen (1975:190)]の規定を廃止する。
2.旧臓器移植法第2条に規定されている承認および第4条に規定されている許可は本法第8条、第9条に規定されている許可とみなされる。
以 上(菱木昭八朗訳 参照 菱木昭八朗「スウェーデンの新臓器移植法」比較法制研究第20号(1997年)国士舘大学比較法制研究所)_